『17スタートアップ 創業者のことばから読み解く起業成功の秘訣』起業家が語るリアルな課題と解決プロセス(前編)

カテゴリー:起業家 2019.11.06

17名の起業家にヒアリング 人・金・情報の課題と解決方法を1冊に

畠山 和也氏 本気ファクトリー株式会社 代表取締役 『17スタートアップ:創業者のことばから読み解く起業成功の秘訣』著者

僕はパラレルキャリア、つまり複数の企業で働いていますが、今日は「本気ファクトリー」代表取締役の畠山として、この場へ来ました。弊社は大企業の新規事業開発を業務としているコンサルです。このほか、ビットキーやHISの子会社、キャリア教育企業などの起業の役員として、その会社の事業開発を進めています。大学生起業家の育成もしており、教え子の中にはエンジェル投資家から投資を受けたり、スタートアップで上場を目指したりする人がいます。小さなビジネスで実際にお金を稼いでみたいとか、食べられない食品が捨てられるフードロス問題に取り組んでいる学生もいました。若者が未来に希望を持てる、若い子が自分の力で食べていけることを目指して大学生起業家の育成をしているところです。

今回『17スタートアップ』でご縁をいただいた早稲田大学は母校でもあり、2005年に卒業しました。その後、ソフトバンク、リクルートで新規事業を経験し、紆余曲折を経て現在のパラレルキャリアに至っていますが、図らずも社会人になってからずっと新規事業開発に携わってきました。主に立ち上げ初期に関わっており、業務領域はシステム開発、資金調達、会計、営業企画など、幅広いのが特徴です。起業初期には人が全然いないので、必要なことをこなしていたら、なんでもやる人になっていました。

『17スタートアップ』は早稲田大学出版と、早稲田大学産業経営研究所の協力を得て、書籍化したものです。私自身、起業に関わってきましたが、多様なスタートアップや新規事業の研究もしてみたいと2018年、早稲田大学経営研究所で計10回、17名の経営者に課題と解決というテーマで話していただきました。その内容がこの本の元ネタになっています。

スタートアップの初期に直面する課題には共通点があります。みんな同じところで失敗してしまう。それはヒト、カネ、ジョウホウです。特にヒトについては、企業規模が大きくなってきても、同じ課題に直面する傾向があります。すぐにやめてしまったり、お金を持ち逃げされたり、顧客を連れて逃げられたり、結構皆さんが同じような痛い経験をしているんですね。ですから、最初期はコアメンバーをどう集めるかがとても大事。信頼できる人と仕事が始められるかどうかは、非常に大きいと感じています。

お金については、最初期に本当に苦労します。ある程度大きくなれば支援者が現れ、銀行の融資が得られたりしますが、最初はしばらく苦しい。

情報の点では、経営者は詐欺などの被害に遭うことがあります。一度経験していれば反省して防げることですが、初めてだと無駄にお金を使ってしまったり、契約書を書いていなかったために利益を持って行かれたり。誰もが一度は失敗するといえるでしょう。

起業家の皆さんが共通して経験するこうした課題や、解決方法を17人の方に話してもらい、それをまとめたものとなっているので、新規事業を始めようと考えたときなどには手に取ってもらえると、役に立つ部分もあるのではないかと思います。

 

起業家ピッチ&トークセッション

(登壇者)
・上田祐司氏(株式会社ガイアックス 代表執行役社長)

・重松大輔氏(株式会社スペースマーケット 代表取締役CEO)
・文原 明臣氏(株式会社nana music 代表取締役 社長CEO)
・江尻祐樹氏(株式会社ビットキー 代表取締役CEO)
・大賀 康史氏(株式会社フライヤー 代表取締役CEO)

(進行)

畠山和也氏

 

起業家が語るリアルな課題と解決プロセス

畠山 今日はそうそうたるメンバーですね。最初に皆さんの会社概要と自己紹介をお願いします。

上田 人と人を繋ぐというミッションで、ソーシャルメディアの仕事をしています。企業様からのご相談を受けているほか、シェアリングエコノミー関連でも事業をしています。

畠山 上田さんは投資家としても活躍されていますね。

上田 弊社出身者が3社上場しているうち、2社に出資をしていました。

畠山 人材育成にとても力を入れていますよね。起業するインターンもいます。

上田 そうですね。だいたい、インターンに来させて休学させるという(会場笑)。

重松 スペースマーケットの重松です。いろんなスペースを簡単に貸し借りできるサービスで、Airbnbのレンタルスペース版です。上田さんとは「シェアリングエコノミー協会」という一般社団法人を運営していて、11月11日にオープンイノベーション的な「SHARE  SUMMIT 2019」を開きます。ぜひチケットを買っていただければ(会場笑)。

文原 nana musicの文原です。弊社は、スマホ一つで世界中の人たちと音楽でコラボレーションできる、というサービスをしています。誰かと一緒に歌ったりセッションしたりできるものです。もともと私はスティービー・ワンダーが好きで――「We Are The World」という名曲がありますが――2010年にチャリティーソングの音楽に感銘を受けました。パソコンではなく、スマホなら非常に多くの人が持っていますから、これが世界につながるマイクになるのではないかと思って始めたサービスです。ミッションは、音楽で世界の人の心を繋げるということです。

江尻 ビットキーの江尻です。私はこうしたセッションの場に立つのはほぼ初めてです。ビットキーは最近22億調達しまして、大型資金調達で注目されています。表向きの事業ではスマートロックの普及をしていますが、その実はID屋です。デジタル上のIDを安全に便利に気持ち良く使えるようにして、いろんなサービスをコネクトしていく仕事。あくまでスマートロックを売りたいのではなく、IDとIDで受け渡しをするということをベースとして、全ての扉の鍵の受け渡しをスマートにしたい。例えば、再配達をなくしたり、住宅の内見が簡単になったりするようなことを実際にしていて、レンタカーやカーシェア、金融への汎用性があります。

大賀 フライヤーの大賀です。ビジネス書や教養書を1冊10分で読めるように、要約してお届けするという書籍のアプリサービスをしています。畠山さんの『17スタートアップ』も要約を公開する予定です。1冊の本に頭から向き合うのではなく、骨子をつかみ、重要点を見てもらう。それを元に、購入を検討することもできる。持っている本ならば、要点がわかっていると効率的にハイスピードで読めるようになる。必要な箇所を拾うこともできるんですね。そうしたサービスをしています。

コミュニケーションと情報共有の難しさ

畠山 それでは本題に入りたいと思います。本書のテーマでもありますが、事業開発をしていく上での課題と解決について伺いたいです。

畠山 この1年ほどで経験した課題と解決方法、加えて、解決しなかったことについても話してください。

上田 グループ経営をしているので、会社を細分化しているんですね。今更なことですが、コミュニケーションや知識ノウハウをどう伝えるかが難しい。弊社はインターネットでソーシャルメディアをしていますので「イントラにも書くな、ネットに上げろ」という感じなんです。自分らに必要なことは世の中に必要なのだから。しかしそれが、みんなができるかというとできない。みんながウェブにアップすればいいと思うのですが、未だにできていない。

畠山 リクルートではいつも、ノウハウをシェアするように言われていました。競合社では「テレアポトークが盗まれないように公衆電話でテレアポしろ」というオペレーションがかかったりしていましたが、そういう文化になるとシェアがばからしくなる。文化の問題は大きいと感じます。文化作りについては意識していることはありますか。

大賀 上田さんの話で気になったのですが、世の中に対してアウトプットするというのは、純粋に世の中に貢献するためにしているのか、それとも考えを深めるためなのでしょうか。

上田 みんな、イントラにログインできなくなりつつあるんです。ググることはできるが、イントラにログインしてググるという行動パターンがないんです。アクセス権限のコントロールが難しい。メール書くならブログにして、と思うのですが。

大賀 そっちの方が合理的だということですね。組織の課題という点では、弊社は階層のない組織を志向しています。ピラミッド型の組織は、上層部にやる気のない人や能力が不足した人がいると、その下から重要な議案が上がらない。これまで経営コンサルタントをしていて、それをずっと感じていたんです。一人一人がプロフェッショナルとして自立して働ける組織を弊社は志向していまして、CEOの自分もその輪の一要素と考えています。今年、従業員が12人から25人に増え、新卒もいれば50代もいます。すると、一人一人のスキルの差が見えてくる。経験や能力が間に合わない人に、どこまで任せるのか。そこにずっと悩んでいます。イノベーティブな組織は矛盾をはらんでいますよね。心理的安全性、居心地の良さを大切にするとともに、プロフェッショナリズムを高めないといけない。その人が、市場価値を高めるような思考を自発的にしていかなくてはならない。そういう、ある種の矛盾がある。その中で、今は一人一人を育てることにフォーカスしていて、それなりに成果は上がっているけれど、人数が増えたらどうなるのか。2年後、3年後を見据え、どうマネジメントしていくべきかということに悩んでいますね。

 

理想と現実の乖離をどう埋めるのか

重松 私はこのビジネスで5年半が経ち、ホストもゲストも増えてくる中で最近変わったところでは、プロホスト、つまりスペースマーケットだけで生きているような方が増えてきました。ひとつの転機は、民泊新法。Airbnbはプロホストが支えていたのですが、法律改正でこちらへ流れてきた。それはポジティブなことでもありますが、美しいシェアリングエコノミーというと、田舎の高齢者が空いている古民家を貸して、首都圏から人が来るというような、無価値だったところにお金や仕事などが生まれる、という夢みたいなものがイメージされます。その一方でプロが増えると、ビジネスにして取り組んでいて、そのバランスが難しくなります。答えは模索中ですが、どちらも伸ばしていきたい。スペースマーケット事業部だけで社員20人抱えているような、弊社より大きい会社もあるし、スペースマーケット経由でNPOの方がやっている事例ですが、奈良県の木造の廃校舎で毎週末開くコスプレの撮影会に関西中から人が集まったりもしているので、いろんな事例を作っていきたいですね。

畠山 真剣にやろうとするとプロ化しますね。

重松 そうですね。ちゃんとやれば儲かりますから。突き詰めると、副業で始めたものが本業になることも。とある会社では、すごく流行ってしまって、社員が2、3件スペースマーケットで回していたりもします。

畠山 そこでも理想と実態があって、ビジネスとしてはいいけれど理想とのジレンマがある、ということですね。

重松 今は過渡期だと思っていまして、今後はどうボリュームを増やしていくかが課題かと思っています。

畠山 その辺、nana musicさんの場合、プロ化する人たちはいるんですか。

文原 プラットホームでは儲けられませんが、卒業前にプロダクションに入ったり、デビューしたりという流れは生まれています。どう稼げるようにしていくのか、という点は、僕らも悩んでいるポイントではあります。「フォロワーや再生数を稼ぐ」というところが前面に出てくると、「コミュニティとしてそれはいいのか」という問題が出てくる。ポリシーの話になりますが、この先どうしていくかを考えています。

畠山 コミュニティといったとき、リアルコミュニティとウェブ上のコミュニティは性格が違うのではないでしょうか。リアルコミュニティは多様な面が評価されるので、特徴がなくなりがち。一方、ウェブコミュニティは特徴がないと死んでしまう。ツイッター、フェイスブック、ミクシーは元は大きく変わらない思想で始まっているはずですが、ツイッターでは、叩き合う2ちゃんねるの延長みたいな世界があったり、フェイスブックでは「俺、金持ってるぜ」みたいな感じだったり。そうやって特化していかないと生き残れないところがありますが、リアルだと場所が限定されるので、その近くにいるだけでコミュニティとして成立する部分があると思います。ただ仲良くしているだけではビジネスにならないところもあるのかな、と。

文原 「コミュニティに来る人たちが文化をつくる」という構造は、リアルでもウェブでも一緒だと思うんです。リアルなものは土地、場所に依存すると思います。弊社のサービスは「世界中で、みんなで一緒に歌う場所を作るんだ」というところから始まっているので、儲かるかどうかより、自分の歌を聴いてほしい、作ったサウンドを使ってほしい、その中で稼ぐ、というように、色がはっきり違っている。稼ぐためにわざと水増ししたり、ツイッターでフォロワー増やしたりすることは悪いことではないと思いますが、コミュニティにはコンテクストがあり、そこが大きく乖離してしまうのが悩みではあります。

畠山 とはいえ、真剣にやり始めると、プロを目指したいというユーザーニーズが出てくるのでは。そこへの対処はどうですか。ファニーでやりたい人と、ガチでやりたい人を、どうさばいているのでしょうか。

文原 今までは、プロになりたい人にあまり価値を提供できていませんでした。基本的には、フォロワーが増えていったり、サウンドが拡散して再生回数が積み重なったら、明確に影響力が増え、それによってプロダクションやレーベルに行きつくようにしていきたい。

江尻 有償化しているんですよね。プレミアのつくユーザーを。

文原 プレミア自体は2016年10月から始めています。

江尻 投げ銭なども?

文原 投げ銭は12月に予定しているんですが、収益がホストに還らない形です。ツイッターのモデルに近いんですが、あくまで空間を盛り上げる、時間を延長する、というもの。デジタルアイテムに対して課金してもらいます。

“解像度”変えて5年先まで事業を見通す

畠山 江尻さんは、お話しいただけることがたくさんあると思いますが。

江尻 弊社は昨年8月1日に創業したので、それから1年3ヶ月。ずっとあらゆることを考え続けているのが大変でした。サプライチェーンで倉庫どうする、物流どうする、支払いどうする、社員が100人になるまでに文化やコミュニケーションどうする、仕組みはいつ入れるか。変な話、毎日あらゆることを考え、意思決定しなくてはいけない。その瞬間は結果が出ないのですが、1、2ヶ月後にダイレクトに影響してくることも。採用も100人雇うというのは大変で、文化維持やコミュニケーションを考えながら、気持ち良さとプロフェッショナリティ、僕らは人間性とプロフェッショナリティという言葉を使いますが、それを維持しながら拡大するのも大変でした。個々人の裁量権などのバランスも常に考えていますし、経営陣とどのようにコミュニケーションをするかとか、現場の生の声をどうするかとか、さまざまな課題があって、一つにフォーカスしづらいですね。

畠山 夜中になると死にそうな顔している経営者多いですよね。ソファに倒れこみながら意思決定しているような。

江尻 スラックを見ながら現場で起きていることを全て把握しておきたいので、深夜にソファに倒れこみながら全チャンネルを見続ける、というの私の姿は社員によく目撃されていますね。

大賀 そのペースで事業運営すると、時間軸はどうなりますか。起業家の人は10年後も見つつ明日も見ていて、時間軸が歪んでいるんですが。私はだいたい3年後くらいが中心にありますが。

江尻 そんなに違いはありません。多分、解像度の問題です。1年くらいは現場のオペレーションまで含めた解像度で見ています。弊社は1月〜12月が通期なのですが、1月に年間の採用計画を作ったら50職種くらいあったんですね。それぞれの職種のミッションなどは1年から1年半くらいで考えていますし、年次の事業計画などだと、今の事業とは違う事業をいつから始めるか、ということなどは3〜5年くらいで見ています。

大賀 なんとなくわかりました。似たものを感じました。

江尻 創業者が僕以外にあと2人いるのですが、アクセルしか踏まないタイプなのです。そこでバランスを保ち、財務的にも人事的にも死なない、ギリギリのアクセルを踏んでみんなで楽しむ。それが一番のプレッシャーですが、楽しくもあります。

畠山 江尻さんのように、これだけ広範囲に意識を向けている人は珍しいですね。大体の場合、作る側の人は作ることにしか興味がないので、カウンターとして売ることに興味のある人とセットでやる、という形になりますが、両方に意識を持ってやっている経営者はとても少ないと思っています。

江尻 うちでは、例えば開発であればそれだけ、という意識の人は多分一人もいません。サッカーで言えばボランチ。ボランチを軸に活動しますが、場合によってチャンスがあればシュートを決めたいし、ディフェンダーが抜かれたら守る、というような形です。責任範囲は、中心は決まっているけれど、周り全員で取りに行くという組織になっています。

大賀 その組織のエネルギーの肝になっているのはミッションですか。

江尻 究極は、楽しく働けるかどうか。新しい価値を生むことも、相手によってフォーメーションを変えるのも面白い。それから、一人が活躍するより、全員が連動してやる方が面白いという嗜好性のある人しか採用していないんです。自分だけ100点ならOKという人はそもそもいない。だから僕は、フィールドに出ない監督とかオーナーの役割で、それが機能しているかどうかを見ているだけです。

大賀 私のここ1年の課題は先ほど話しましたが、他の課題でいうと、5年間の計画です。人はイメージできたものしか実現できないと思っているので、できるだけ先のイメージを持つという意味で事業計画を5年分くらいたてています。その事業をやっている中で常に変化はあります。来年位には社員が50人くらいに増えると思いますが、その1〜3年後には、今のメンバーが第一線で働けるようになっていてほしい。そのために、自分はいろんなチャンスをメンバーに与えていて、できるだけ密度の濃い経験をしてもらおうと思っている。しかし3年後くらいのイメージを解像度高く示せているかというと、できていない自分側の課題がある。そこのコミュニケーションには悩んでいます。3年後、こういう会社になっていた時に、君たちは柱になっているんだよ、というのが伝わりきらないのですよ。

江尻 スタートアップの場合、3年後であっても、現状ビジネスモデルの比較的延長にあるサービスだと伝えやすいですよね。でも新しく生む新規事業は伝えにくい。影も形もないので。今の話でいうと、どちらですか。

大賀 まだ新規事業を会社で一度しか伝えていないんです。魂まで伝えきれていない。そっちの問題かもしれません。みんなのものになっていない。

(後編に続く)

登壇者

株式会社ガイアックス 代表執行役社長 上田祐司氏
~シェアリングエコノミーに注力する起業家輩出企業
https://www.gaiax.co.jp/

株式会社スペースマーケット 代表取締役CEO 重松大輔氏
~シェアリングエコノミーの可能性にいち早く着目しルールメイカーとなったザ・スタートアップ
https://www.spacemarket.com/

株式会社nana music 代表取締役 社長CEO 文原 明臣氏
~クリエイター型起業家が生み出したユーザー700万人超の音楽コラボ アプリ「nana」
https://nana-music.co.jp/

株式会社ビットキー 代表取締役CEO 江尻祐樹氏
~創業1年強で33億円調達。IDと鍵で急成長中!大型スタートアップ
https://bitkey.co.jp/

株式会社フライヤー 代表取締役CEO 大賀 康史氏
~M&A後も急成長!サブスクリプション型書籍要約アプリ「Flier」
https://www.flierinc.com/

■ 著者・モデレーター
畠山 和也 本気ファクトリー株式会社 代表取締役